ArQ[Et[h}句

January 2612011

 音もなく雪の重みにしなう竹

                           アビゲール・フリードマン

文は〈heavy with snow the bamboo bends in silence/Abigail Friedman〉。竹林にどっさり雪が降ると、竹は枝葉に積もった雪の重みでそれぞれ弧を描いてしなってしまう。なかには耐えきれずに、途中から割れて折れてしまう若い竹もある。しかし、他の樹木とちがって、竹はポッキリ折れてしまうことはない。この句で思い出すのは(私事になるが)、中学生の頃、雪がどっさり降った翌朝裏山の竹林に行って、雪の重みで弧を描いて大きくしなっている竹を、一本一本ゆさぶって雪を落としてやったことである。誰に頼まれたのでもない。竹はうれしそうに雪をビューンと跳ね返して高く伸びあがる。散り落ちてくる雪をあびながら、そんな作業がおもしろくもうれしかった。雪がたくさん降った後そんな作業をしに、よく裏山の竹林へ出かけた思い出が懐かしい。フリードマンはアメリカの女性外交官で、駐日アメリカ大使館勤務時代、俳句に興味を抱いて黒田杏子に師事し、句会にも参加したという。俳句を学んでいて、「子どものころ未来について夢見たのと同じ畏れと神秘さを味わった」と記している。掲句は彼女の俳句体験記『私の俳句修行』(中野利子訳/2010)巻末の「アビゲール不二句集」に収められている。他に「雪が舞ふ刻(とき)の流れをおしとどめ」などがある。俳句訳=中野利子・黒田杏子。(八木忠栄)




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